ART LIVES TORIDE ここで芸術が生まれる。

TAKASU HOUSE
秋良美有・三吉瑠美衣


秋良美有:
作家活動において、私にとって大事なのは『制作スペース』です。木工作業のときに音が出る作業があるのでそれを厭わない場所。広くて、天井が高いスペース。制作中、モノを保管できる空間。周りに、ホームセンターやリサイクルショップなど、素材が集まりやすい場所であることなど、ポイントはさまざまあるのですが、なによりご近所さんとのコミュニケーションを大切にできる場所がいいです。肩身の狭い場所で作ることが一番つらいことですから。
これらにおいて高須ハウスは隣接する施設がほとんどなく、ご近所さんとはお野菜の交換をするほど仲がよく、居場所としてとても暮らしやすいなと思っています。高須ハウスには5年ほど前に取手アートプロジェクト《半農半芸》の短期レジデンス作家として関わったことをきっかけに、今は管理人として過ごしています。


もともと油画専攻で絵を描いていましたが、大学1年生の末に自由課題が出され、自分には誰かに見せてまで描きたいものはないと思いました。そして絵を描かなくなりました。それから、他者(人間以外も含む)に反応するようになって、社会現象や社会問題を扱うようになりました。表現としての魅せ方を模索し、日常にいる人に見せる方法として、空間表現・パフォーマンスといったかたちに現在たどりついています。

MADE IN JAPAN 2018年

 

2020’ZOO 2020年

 
でもつくるのは、自分の作品でなくてもいい、と考えています。これからはとにかく作家がつくったものをいろんな場所にインストール、発生させていきたい。
まだまだインストーラーとしては技術向上時期で目指すところには届かないのですが、例えば、バンクシーが遊園地を開いたような、大規模な現象芸術を夢にしています。とにかく、人との繋がりで続けていくことが目下の目標です。
社会にとって芸術は大事です。他にたくさん並べたなかで芸術というもの”も”大事になる、といったかんじでしょうか。
私の場合、考えたいから制作を続けています。日常の疑問や怒りや悲しみが発端となり制作の中で考えます。そして自分なりのアウトプットで考えや意見を出します。だいたい考えたいことって世の中の中では白黒つかないことだったりタブー視されていることです。だから言葉で考えようとすると上手く考えられない。なので私は、答えをだすのではなく鑑賞者や関わった人と考える場所づくりをしたいと考えています。
 
 
三吉瑠美衣:
絵を描いています。今までは絵画制作やギャラリーでの発表を主な活動としていましたが、現在は少し変わってきています。絵画以外の表現方法、例えば、言葉を使うことや新しい見方で文化を見直すことも自分の表現活動になるのではないかと模索しています。自己表現はアートの現場以外でも成り立つものだと考えています。

SKIN 2019年

小さい頃からモノ作りやお絵描きが好きで、将来は伝統工芸士か画家になりたいと思っていました。その延長線上で絵を描く勉強を続けていましたが、それを自己表現として制作しているんだとハッキリ認識したのは大学3年生の頃だったと思います。
不器用で見方によっては社会的能力が欠損しているようにも受け取れる自分と似た部分を持った友人が、創作を通して周囲の人とどんどん繋がっていく姿を目の当たりにしたことがきっかけでした。私も人と違って構わないから、よりもっと自分らしく在れば、そのままの形で他者に受け入れてもらえるのかもしれないと感じました。その時、表現に対する姿勢や意欲が変わりました。
東京藝術大学大の学部1年生の頃に取手キャンパスへ通ったことや、その後も2年間取手に住み続けていたことから、ここは馴染みのある思い出深い場所でした。大学藝大は卒業しましたが、そこで知り合った友人からの紹介で高須ハウスの存在を知りました。高須ハウスは若手アーティストの制作を援助するためのスペースとしても開かれたスペースです。私は他のシェアアトリエ等でも制作するのが難しい3×3メートルの大きな絵画を制作する為に、職場とも行き来をしながら3ヶ月間の滞在制作をさせて頂きました。

うつろう皮膚の中で わたしは暮らしている 2020年

 
都会の喧騒を離れた田畑や川原などの自然に囲まれた環境や、管理人として制作生活を共にしてくれる同世代のアーティスト秋良美有さんや、すぐ裏の体育館を利用する方々や近隣住人の老若男女との関わりは、今まで多くの制作を大学のアトリエ内で行ってきた私にとって新鮮でとても心地の良いものでした。
私は自分ひとりの世界に没頭して生活そっちのけで制作してしまう事が多かったのですが、そのスタイルを見直しているところでした。この時期を制作と生活のどちらを取ることもできる高須ハウスで過ごせたことは、制作に追われているわけではない状況下での自分の行動について考える為の貴重な経験となりました。
今のところはギャラリーで精力的に作品を発表していこうとは思っておらず、地に足をつけて生活を営んでいけるような方向に力を注ごうと考えています。
私は生活のためにお金を得る方法として古道具屋の仕事を選びました。簡単に説明すると[個人からの買取や業者市場でモノを買い集め→それらを保管/整備/整理し→骨董市で次のもらい手へと販売する] というお仕事です。モノを買取る際は、亡くなった方の遺品整理のためにお宅へ直接伺うこともあります。その方が残された全てモノに価値を見出し値段つけて買取ることはできません。その時に古道具屋は「では何を次の世代に受け渡すべきなのか?」を問われるわけです。そういうジャッジを自分の主観のみに偏らず、より良い未来の為に的確におこなえるよう日々見識と感覚を磨いています。

この仕事に携わるようになり、時代を経て人の手から手へと受け継がれ残されてきた物に触れることから、自分の感覚や視点の幅が少しずつ変化してきていることも感じます。モノが持つ肌合いや取扱われ方にも着目して価値を踏むことから、今は素材そのものにも興味を持つようになりました。また、芸術というよりも文化という範囲で物事を考えることが多くなったように思います。
今までは自分の中にあるものを深めることが面白くてひたすらに制作に向き合ってきましたが、現在はその外・私が生き触れている世界や社会の方への関心の深まりを感じています。
私にとって絵は小さい頃から身近にあり、一番慣れ親しんできた表現方法です。この方法でならもしかしたら自分というものを表現できるのかもしれないし、そしてそれで他者と対峙し関わることができる可能性があると思っています。
完全に人との関わりを排除して生きていくことなんてできるわけがないし、人との関わりを通してしか喜びを感じることもないのかもしれない。そうである以上、私は色んな方法を探しながら自身の表現を磨き続けるのだと思います。
 

TAKASU HOUSE

取手市高須地区にある、取手アートプロジェクト《半農半芸》の活動拠点として2013年春にオープン。小貝川のすぐそばの元農協事務所の建物をセルフリノベートし、若手アーティスト向けレジデンスプログラムを実施。施設周りに小さな畑があり、レジデントや管理人は畑や草刈りも行い、地域の方と関わりながら制作を行う。
http://takasuhouse.com/

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