井野アーティストヴィレッジ(IAV)
─つちや あゆみ
私は主に木工で作品制作をしています。ガラスとかを使うこともあるんですけれども。木は独学で、自分の作りたいものに必要な技術は調べて、何とかなるようにしています(笑)。
制作を始めた頃に引っ越しで住まいを転々としていていたこともあり、制作場所がなくて大変困って、どこかにアトリエがないかと人に聞いて回っていた時に知り合いの作家づてにここに辿り着きました。夫の職場との中間に家を借りて通っています。
金額の割に広く使えるということと、こういう制作できる場所があることがそもそも有り難いんですけど、もっと有り難いのは、近隣の方々の理解です。ここはいい場所です。
子どもが生まれるまでは制作中心で、その他の時間に家のことをやるっていう感じだったのが、今は子どもが中心になって、夜寝てから図面を描いたり、子どもたちを園に送ってお迎えにいくまでの間、9時〜5時で制作しています。サラリーマンみたい(笑)。
「輪唱の◯」という作品は、お客さんが鍵盤を組み替えられる木琴です。音楽が苦手な私でも演奏できる楽器を作ってみたいなって思って作りました。
小学校の時、神戸のハーバーランドっていうところに鉄琴の上を玉が転がってきたらドレミファソラシドって鳴るところがあって、そこをガラス越しに見ながら、あれをはめ変えたらメロディー変わるよなって思っていたのを15年経ってから思い出して作りました。
「輪唱の◯」
自分が楽しいと思って作ったものが受け入れられたらテンションが上がってそこを追求していくっていうことが多いんですけれども、自分の中でいいと思ったものしか作らないようにしています。自分が何を良いと思っているのか分からなくならないように、特に誰も求めていなさそうなものを作ったり、遊び心だけで作ったりしています。
芸術が好きかと言われると実は全く興味がなくて。私は、小さい子とか家族連れとか私と同じように、そんなに芸術に触れたことがなくて興味のない方々が「何だこれ」って近寄って触って見て楽しんで、「そういえばこれもアートだな」って気づくような、アートの入り口になるところを目指して行けたら良いなって思います。
─オオシオヒロコ
2007年の12月からここに入っています。その当時この井野ショッピングセンターは、お店がポコポコ空いちゃっていて。そこを活用して、学生さんとか大学出たてでお金もコミュニティもなくてどうしたらいいのか分からないっていう人達の駆け込み寺のようなプラットフォームを故・渡辺好明先生(東京藝術大学先端芸術表現科教授・当時)が立ち上げたのが成り立ちです。雰囲気は、私はずっとそんなに変わらない気がしています。ちゃんとずっとなだらかに、常にアトリエは埋まっていて。
私はとにかくいろんなことをやっています。絵を描いたり、立体的な物を作ったり、素材も様々で、絵の具で絵を描くときもあれば石を使って作品を作る時もあるし、ガラスやセメントを使って立体物を作ったりもする。そんな感じで多岐に渡って制作しています。壁画をやることも多くて、街中に絵を描いたり、駅の中に絵を描いたり、そういうこともさせてもらっています。
大学で壁画専攻を選んだのは、フレスコ画やモザイク画は、描こうと思えば無限に重ねて描ける油彩画に比べてもっとはっきり終わりがあるっていうか、それが肌に合っていたからです。それに、絵を描くって何だろう? ファインアートとデザインの境界線って? と悩んでいた時に壁画に出会って、公共性を意識しながらも自分を出していいみたいな落とし所が自分の中でしっくり来た。
現代に限らず生きてる限り、社会と関わっていき続けなくちゃいけなくて、その中で考えることがたくさんあるなと思うので、単純に技術だけじゃなくて、考え方とか自分のタッチとか、そういうことについて考える手段として、自分には合っていたんです。
「百鬼昼行」
学生の頃から、私は美術を続けて最終的に何がしたいかといったら、公園作りたいんですよ。自分の公園。自分だけではどうしようもない大掛かりな土地とかを何とかしてみたいなと思います。美術館に作品が置いてあって一人二人の人に見られるより、駅の中とかで百人、千人、一万人、多くの人が風景を見る感じで作品を見てもらえたら嬉しいです。
絵を描くこと、ものを作ることしかできない。この道が正解かどうかは分からないけれど、間違いではない選択肢を選んで来られているのかなと思ってやっています。好きなことを続けられているのは超幸せだと思ってるので、今のところ幸せです。
─倉敷 安耶
私は、自己と他者が絶対的に分断された別物であるということを前提に、私たちが他者と自己の関係性の中でどうやって生きていくかっていうことを、制作を通して模索しています。私と他者は違う存在なので、時折お互いの主張がぶつかり合うし、職業、性別、人種などで他人をカテゴライズして生きているので絶対的な調和は生まれない。そこを他者とどうやって生きていくかか、みたいなことをしています。
技法は主に転写を中心に展開しています。転写は、版画に近い技法です。方法は、メディウム転写とかシンナー転写、あとは水圧転写とか色々あるんですけど、全部キャラクターが違うので欲しい表現に合わせて選んでます。
転写にたどり着いた経緯は、元々パソコンで画像を作ってそれをペインティングしてたんですけど、それを見ながら描くっていう工程をなくして効率化できるのではないかなと思って。最初は下絵として転写を用いたんですけど、次第に転写をメインにペインティングを加えていく、或いはペインティングを使わず転写のみをそのまま使用する方が自分の欲しいイメージに合うんじゃないかと思い、転写を中心にやるようになりました。転写は必ず原画があって、原画は外部から引っ張ってくることが多いです。自己の外にあるものを使用して制作をすることが、他者との関係を結ぶという私の制作思想と重なるものがあります。転写をすると傷とかが入ったりとかやり方によってはクラックとかグランジ感が出るんですけど、そういう行為の痕が残るのも身体的で自分としては気に入って転写を使っています。
「transition」
修了展でやった、(来場者が作家と、作品の内部で言葉を交わす)パフォーマンスが好評だったので、もうちょっとやっていきたい。でもコロナの中では難しいので時期を見つつ再開したいなと思ってます。あとは、私は大きいものを作るのが好きなので、最近は壁画にも興味があります。
私にとっての対話の方法が、作品を通じて他者と対話を重ねて、他者への理解を深めていくという形をとっているので、そういうことをしたくて制作を続けています。アート自体、身体にとって必然的なものではないかもしれないですけど、生命の維持より社会の維持に必要なものだなと考えています。
─懸谷 直弓
私はスチロールを使って造形をしたり金属の平面作品を作ったりとか、色んな実験をしながら作品を作っています。
元々、丸の内で銀行員をやってたんですけど、その時に物理的に人を元気にするものを作りたいなと思って、その一つの方法がアートなんじゃないかって思ったので、アーティストになりたいと思い東京藝術大学の先端芸術表現科で現代アートを勉強しました。
銀行員の時と今と、そもそも働き方というか生き方が違います。銀行員の時は大きな組織の中の一人で、今は自分が顔を面出して私一人で生きるっていう生々しさがあります。今は自分がどれだけ動くかとかコントロールが全部自分主体になるので、自分の生き方は自分で判断しないといけない。これからどのような作品が出来上がるのか、自分で分からないですけれど、ひたすらがむしゃらに作っていくっていうことを続けていこうと思います。やり抜くしかないと思ってるので頑張ろうという感じです。
「漂流する肌」
このアトリエを使うことで、作品の制作について相談したりとか、悩み事を共有したりとかしやすいので楽しく使わせてもらっています。オープンアトリエがなかなかできない中で住民の方との積極的な交流は難しいんですけど、作品を中に運ぶ時に大変そうだからって手伝ってくれたりとか、そういった形で緩やかな交流があります。
コロナの中では、なかなか人と関わるのが難しい中なのですけど、インターネットとかを通じて新しい関わり方で、物理的にみんなが楽しくなるような作品を作るっていうのが今のテーマの一つなので、大変な時期だけどそういうつながりを感じさせるような作品ができたらなと思っています。
人を元気にするために物理的に何かを生み出したいっていうのが元々のやりたいことだったので、どんな傑作になろうがどんな失敗作になろうが、チャレンジしていくっていうことは大事にしようと思っています。
─飯野 哲心
僕は2019年度から井野アーティストヴィレッジ(以下IAV)のコーディネーターです。管理人みたいなことですね。入居希望の方の対応をしたり、後は各部屋のトラブルなどの対応などをしております。僕はすごくたまに101の工作室を使わせてもらうんですけど、基本的に僕は市内の別の場所にあるアトリエで制作をしています。
元々IAVはこの団地のショッピングセンターだったんですよね。お店が少なくなってシャッター通りみたいになっちゃったところを、東京藝術大学の故・渡辺好明先生がプロジェクトとして2007年の末くらいにURさんと藝大と取手市の事業として立ち上げた共同スタジオです。
団地の方の生活に近いっていうのは他のスタジオにはない部分だと思います。団地の方が制作中にちょっと覗きにきたりとか、オープンスタジオの時にも人がいっぱい遊びにきてくれるんですよね、そういうのを見ると、思ってるよりアートって身近な気がすることがあります。
僕は彫刻科を出ていて、立体作品をつくることが多いです。ずっと制作のベースにしているのは、少年の思う「かっこいい」とか、「面白い」とか。それが僕には美しく見えるので、稚拙なものとして扱われるのが納得いかないんですね。それをどう伝えようかなっていうのを追求して作品にしようとしています。作りたいものがあるから、まだまだ作ります。
ここでは盆踊り大会したい。やぐらを組んで、彫刻飾ったりして、みんなで踊るデカい祭りというかイベントというか盆踊り大会いいなって。
あとは、団地の人対象のアンデパンダン展がしたい。タバコの箱で作った傘とかいっぱい出てきたらいいなとか思っていて。
去年のオープンスタジオで気がついたら一緒に呑んでいた団地の人に話を聞いたら、「俺も作品作ってるんだよ」って。こんだけ団地で人がいれば趣味とかで物を作っている人は結構居るはずなので、集めて団地アンデパンダン展やってみたいです。
「送り火 精霊馬ムーバー」
「Judo Painting」
井野アーティストヴィレッジ(IAV)
http://inoav.org/iav/
「井野アーティストヴィレッジ」は、東京藝術大学と取手市が連携し、UR都市機構の協力により取手市井野団地内ショッピングセンター1棟(7戸)を改修し2007年12月にオープンした、若い芸術家の為の共同アトリエ。
この記事に登場したメンバー
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つちや あゆみ
工芸, 現代美術, インスタレーション, 音楽(演奏), デザイン(空間), ワークショップ(大人), ワークショップ(子ども)
神戸市出身。会社勤務を経て2008年に多摩美術大学造形表現学部に入学し空間デザインを学ぶ。2012年に同学部を首席で卒業後、音や触れるコトをテーマに木材をはじめ様々な素材でインタラクティブな作品を制作している。各地のアートイベント、美術館、病院などで体験型の展示を開催し、無印良品、ベネッセ、カリモクなど、企業とのコラボレーションも手がける。
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在学中は主に大理石によるモザイク技法作品を制作する。 現在は様々な素材や技法を用いて、「人が笑ったり喜んだりしてくれたら嬉しいな、結局大事なのはそこなのかな」と、物思いに耽りながらふわりと表現を続けている。 1983年東京都生まれ 2006年女子美術大学芸術学部絵画科洋画専攻卒業 2008年東京藝術大学大学院美術研究科壁画専攻修了
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倉敷 安耶
絵画, 現代美術, インスタレーション, パフォーマンス, 写真
1993年 兵庫県生まれ。2018年 京都造形芸術大学修了。 2020年 東京藝術大学大学院修了。公益財団法人佐藤国際文化育英財団 第26期奨学生。公益財団法人クマ財団 第3期奨学生。 外部との繋がりを軸に、転写を用いて活動を行う。人々は皆、永遠に別物であり、不連続体である。例えば性や国籍といったカテゴリー、またその肉体の所持する個人の背景によって他者と個人は区別される。加えて肉体という物質は決して他者と融合することはない。倉敷は作中で他者との密接なコミュニケーションや共存の模索、またあるいは融合などを試みる。主な活動に「視覚の再配置」(2018/ SHIN美術館 / 韓国)、「outline」(2019/ Maki Fine Arts/ 東京)、油画教員総見1 位取得 「東京藝術大学大学院 修了展」(2020/ 東京藝術大学 / 東京)など。
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懸谷 直弓(カケヤナユ)
アイテムクリエイター・美術家。1988年埼玉生まれ。大妻女子大学文学部日本文学科首席卒業後、銀行での勤務を経て、東京藝術大学美術学部先端芸術表現科で学ぶ。2018年「2.5次元の触覚」東京都知事賞受賞。 -
飯野 哲心
彫刻, 現代美術, インスタレーション, パフォーマンス, 映像, 写真, ワークショップ(大人), ワークショップ(子ども)
2008年3月 金沢美術工芸大学大学院 修士課程 彫刻専攻 修了
現在 東京藝術大学大学院 博士後期課程 先端芸術表現科 在学中
「カッケー」と「オモロー」を主とした「少年期の美意識」。
これを芸術と出会う以前に見出していたはずのイノセントな美しさであると考え、その衝動的なフィルターを通して日常に介入する作品を制作。
その他所属メンバー
─谭程阳(タン テイヨウ)
https://www.instagram.com/t_chengyang/
─髙野倉 里枝
https://takanokura221046.wixsite.com/takanokura-rie
https://www.instagram.com/takanokura_rie/
─竹山真熙(たけやまじーに)
https://jinitakeyama.myportfolio.com/
─菅原智子(tomoko sugahara)
─藤木光明
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