ART LIVES TORIDE ここで芸術が生まれる。

上川 桂南恵


現在は大学で学ぶために取手で暮らしています。キジの鳴き声と川の音、もりもりの緑が故郷に帰ったような気持ちになります。いろんなものを作っている人がいておもしろいです。オーガニックな食堂のごはんもおいしく、野生な人間になれます。
いつも、制作・制作・制作、制作のことを考えて、制作の夢を見る、家では生活の仕方がわかりません。
おや、もうこんな時間だ、取手校地に行って精神統一。
生活の中で大事にしていることは、心からしたいと思えることを楽しんで一生懸命することです。

アトリエの様子

 
これまではキラキラとした豪華な装飾、絵画がすきでした。故に、自身の作品にもそうした過剰なまでの装飾を施してきました。しかし2020年7月に経験した故郷の水害でそうしたこれまでの価値観が大きく覆されました。
水没した思い出のある家は、水害で洗い流されて中も丸見え、隠れるところもなくなってしまいました。
変わり果てた故郷を見て悲しく思う反面、今はそれらはすべて地球というひとつの大きな土地に人間が建てただけのものだったのだ、と自分を無意識に囲んでいたあらゆるしがらみから、開放されたような気がしています。
水害後しばらくして東京に来ました。全く地元が泥だらけであることがうそのように、遠い存在に思えました。
しかし、どこかで東京の街に泥を重ねて見てしまうようになりました。いつかはこの場所も、自然のエネルギーに淘汰されるのではないか、という危機感が常にあります。
そして私は『川の底の泥が頭の上にくるかもしれない』シリーズの制作を始めました。
これまで描いてきた具象画とは違い、このシリーズでは水と油絵の具を混ぜたドローイングや、植物を絵画の一部として取り込んで制作しています。水が油をはじいて、私の意思ではコントロール出来ない像を描きます。その感覚は、人間には制御できない自然のエネルギーのようなものと、どこか繋がっている気がします。水に油絵の具の上澄みが浮く様子は、水害時に撮影された水没した思い出の家の写真を思い起こさせます。またこれまでホワイトキューブでの展示が多かったのですが、野外での展示実験を始めました。水害によって天地が反転した様を表現するために、地表に生えている植物が高いところにある不可思議な状況を作ったり、洪水到達のマークを実際に3mの高さに展示します。今後は変化しゆく自然に共鳴するように、また自然の中に実際に身を置きながら作品を作り続けます。

「川の底の泥が頭の上にくるかもしれない」シリーズ/音楽 2020年

作品のすごいと思うところは、地球の大抵のものは、つくられたあとにどんどんゴミになっていく物体だらけの世の中であるのに、丹精込めた作品はしばらくゴミという扱いを受けないところです。
自然は圧倒的で一瞬でものをダメにする力もありますが、もしそうなった場合でも元モノだったものが作品になると、誰かに出会われ作品が存在したという画像がその人の脳内でも守られるという可能性があります。


文中の作品図版「川の底の泥が頭の上にくるかもしれない」シリーズ/絵画 2020年