ART LIVES TORIDE ここで芸術が生まれる。

kanamodesign 田邊 佳奈

保育園のころ、柏から取手に引っ越してきました。高校まで吹奏楽部で続けていた音楽をプロとしてやっていくのは違うかなって考えたとき、こまごまとなにかつくるのが好きだなと思って。ビーズで手芸したり、誕生日カードを描いたりして、人に喜んでもらってうれしかった経験があったんですよね。建築家の父の影響もあると思うんですが、大学でデザインの勉強を始めました。デザイナーになるんだっていう意識は、勉強しながら芽生えていきました。

デザイン会社に就職して、進行管理をやらせてもらったり、ウェブサイトのデザインをしたり。IID世田谷ものづくり大学というクリエイターが集まるところに職場があって、その空間がすごく好きでした。ずっと仕事のことばかり考えていて。なんか、青春でしたね。

7年働いて、子どもを授かったことやコロナ禍になったことなどをきっかけに会社を辞めました。東京でフリーランスの仕事を始めようと思ってたんです。だけど、里帰りで取手に戻ってきたら居心地が良すぎたんですよね。

大学生の頃に関わっていた取手アートプロジェクトを通して、知っている顔がいっぱいいて。団地のなかを歩いていると、当時一緒に活動していた人が声をかけてくれたりするのがうれしかったんです。初めての子育てでいろいろ不安だったけど、ここだったらやっていけるかなって思って。夫もいいねって言ってくれて、フリーランスとしての再スタートは取手にしようと決めました。

今はウェブサイトのデザインをしたり、イベントの告知をするチラシをつくったり。ロゴやブックカバーの仕事をさせてもらうこともあります。

まずは話を聞かせてもらって、そのうちにお客さんが抱えている課題みたいなものが見えてきて。私は自分の色があるタイプのデザイナーではないので、カッコいいデザインをします!というより、課題があったり、届けたい相手が明確だったりするとき、よく動ける感じがしています。

出てきた話を整理して、構成を考えていくのが楽しいですね。ストーリーをつくるというか、方向性を定めてからデザインをしていくというか。その時間が好きです。

昨年は取手アートプロジェクト経由で、中学校を卒業していく子どもたちへのメッセージを届けるための媒体をデザインしました。「なにか困った時に公的な窓口がある」ということを知らせるためのリーフレットです。

私にとってアートがそうだったように、いろいろな生き方があること、困ったときには頼れる場所と人がいるということをそっと伝えたくて、自由なイメージを空で表現しました。飛び回るたくさんの紙飛行機は、さまざまな個性があっていいんだということを表しています。一枚のまっさらな紙から人生をつくっていくのは自分であって、いろいろな折り方、飛び方があっていい。そんなメッセージを込めたデザインです。少し重たいテーマではありましたが、私自身、社会に馴染みづらいタイプであったので、すごく身近なことに感じながら制作に取り組ませていただきました。

自分がつくったチラシが団地に掲示されたり、母校に届けられていって。それを受け取った子どもたちの反応や、イベント来場者の様子などを直接肌で感じられることは、すごく貴重な経験だと思っています。

ポストカードの絵画:富田直樹 Night rain(夜雨)/2014 photo: Keizo Kioku

これからは子育てから得た気づきを活かして、子どもに関わるデザインにも活動の幅を広げていきたいと思っています。私、実はあんまり子どもに興味がなかったんですよ。だけど出産してみたら、すごく愛おしい感情が出てきて。そうしたら、今までの自分には見えていなかったものがどんどん見えてきたんです。どんな分野にも言えることだとは思うのですが、なにかの当事者になるってそういうことなんだと思って。つくるものや考え方も変わってきた気がします。

ほかにもやりたいことがいくつかあって。そのひとつが、まちのコミュニティのハブとなるような場所をつくることです。昔、井野団地のなかに「ドングリ」という、団地の方たちに愛されるパン屋さんがありました。そのお店がすごく好きだったので、そういう場所をつくれたらいいなって思っているんです。

夫はずっと飲食の仕事をしてきた人なんですが、今はパンづくりの修行を始めています。夫がパンを焼いて、その場所を私はアトリエとして使って。美味しい香りにつられて立ち寄ったら、そこでいろんな出会いがあって、いつのまにか取手への愛着が湧いてまた来たくなるような。取手の魅力を発見したり、発信したり、つなげていけるような楽しい場所を、この団地で、ドングリの跡地でやりたいんです。