ART LIVES TORIDE ここで芸術が生まれる。

小西 恵

取手のまちは、大学のキャンパスに通ううちに馴染み深い場所になりました。時間が溶けるように過ぎていくのを心地よく感じながら、じっとひとりになれる場所です。あらゆる人が存在している、または全部作りものかも、という考えを持ちながらぼんやりとすることが可能になる場所です。
友人の為の衣服のシリーズや鏡の装置などを作り、他者との摩擦を感じながら自分なりの感触を確かめてきました。
振り返ると言葉で伝えるだけの寂しさを払拭するために、友人に服を作って着てもらい記録していたのが制作のはじまりでした。作ることは他者や世界から受け入れられること(または拒絶されること)を実感できる行為だと思っています。
近ごろはフィルムを使って絵を描くように撮影したり、蝋燭で彫刻のようなものを作り、小さな力で変容してしまう可能性を持つものが、留まっている尊さを感じながら制作をしています。
まず世界があって、万物が存在しているという感覚を持っているので在る世界をどう見るか、という視点を大切にしています。そして納得のいくリズムやタイミングを少しずつチューニングしながら生活を送ることも心がけています。
現在は災禍のなか混沌とした状況ですが、時間をかけて彫刻作品を作ることに最近は興味があります。記録ともまた違う固定される方法であって、それを展示などで環境の違うひとたちのところへ投げ入れて観察したいとも思います。彫刻は、生のなかの揺らぎを受け止められる表現手段なのではと勉強していくなかで思えるようになりました。 また、どの世界と関わるのかを選択しやすくなり、簡単に乗り換えが可能ないくつも世界線があるような世の中にでも、共通のものは点在していて、似たものを共有したり体験ができるということが、作品を鑑賞することなのではないかとも考えています。
例えば、ひとりきりには簡単にはなれず、かといってひとりぼっちは寂しい。そんな気分の揺らぎを観察していたいです。とても些細で貴重なもので、この行為は制作のなかでなら許してもらえるのではないかと思います。そういったことを続けながら芸術が必要な社会の一部になることを目指したいと思います。
近ごろは人々が今までの生活を繰り返そうとする力に心打たれる時があります。信じる力は在るのだと身に染みて実感しました。しかし見えないものの力も同じように強く、見えるものにするために報道は繰り返されるのだろうと感じます。そういった見え隠れするなかでひとが試されているように思えてなりません。

(       ) a ghost  2019 藝大上野校内にて
ヘッダー画像: Distance of emotion (抜粋)  2018-