ART LIVES TORIDE ここで芸術が生まれる。

森野 ひにち

小さいころに入院していて、暇だからと、紙とペンを渡されたのが絵を描きはじめたきっかけだと聞きました。家にあるカモの置物を一生懸命スケッチしたり、なぜか竜巻を描くのにハマっていた時期もありましたね。鉛筆でぐるぐる描くだけで立体的に見えて、手軽に本物っぽくなるのがおもしろかったんだと思います。

小学校の低学年くらいには、自分で、ちっちゃい絵本みたいなものも描いていました。タイトルは『怪しい女』。サングラスをかけた怪しい女の人が、家族から「なんでこんな奴になっちゃったんだ」と言われながら進んでいくっていう、今思うとよく分からない物語です。高学年になってからは漫画を読むようになったので、その影響で自分でも真似して描くことが増えていきました。


進路についてあまり深く考えないでいたら、親から「美大にでも行ってみたら」と言ってもらって。滑り込みでデザインの専門学校に行くことになりました。卒業後はデザイン会社に就職して、5年半、ネットのバナー広告をつくったり、ディレクションしたり。半年くらい、福島県の南相馬市に住み込んで、現地のデザイナーを育てる教育担当をやらせてもらったこともあります。つくることは何でも楽しかったですね。


ずっと北海道で暮らしていたんですが、ちょっと環境を変えてみたいと思うようになって。デザインの仕事も好きだけど、もっと絵の仕事をしたかったので、一度フリーでやってみるかって。今はデザインの仕事と、純粋に描きたいものを描くことを続けています。


私、昔から建物についているハシゴを眺めるのが好きで。北海道って、屋根の雪下ろしをするために、上のほうにハシゴがついているんです。地面からだと大人でも手が届かないような高い位置から唐突に始まっていて、何のためにあるのかよく分からない。そこに道はあっても、自分はきっと行くことができない。ドラクエの隠し通路を見つけたような感覚でワクワクするんです。


その時描きたいものを好きなように描いているから、作風みたいなものはバラバラです。一時期は部屋の絵をよく描いていましたね。おしゃれできれいな部屋というよりは、コンセントやコードが丸見えみたいな。住んでみたい憧れの部屋を描いてはいるけど、床が汚いとか横着した痕跡があるとか。そういう人間くささがあるほうが、ワクワクするというか。もしかしたら、私は記録をしたいと思うものを描いているのかもしれません。


描くときは、筆ペンでアナログの線を描いてからスキャンして、iPadで色を塗るというスタイルに落ち着きました。一番好きな工程は、最後に影を入れる瞬間です。平面だった絵のなかにスッと影を入れることで、突如としてそこに物がある、存在感が生まれる。その瞬間にテンションが上がるんです。

最近はZINEをつくりました。すごく手をかけたというよりは、日記のようにささっと描いたものがいくつかあったので、まとめて印刷してみようかなと思ったんです。出てみたいイベントがあったし、リソグラフも試したかったし、一石二鳥じゃんって。なにかを伝えたいって感覚ではなくて、試しにやってみたいことをやったから、よければ見ていってねっていうほうが近いかもしれませんね。ずっとそうやって、試し続けながら、なにかをつくっているような気がします。


北海道からの引っ越し先に取手を選んだのは、まちにアートがあることを打ち出していたり、駅前にVIVAがあったり。つくることに近そうだと思ったのが決め手になりました。住んでみたら、会う人たちがみんな穏やかで。畑を手伝いに行ったら、おじいちゃんが「飛行船を買いにイギリスに行ったんだよ」なんて話してくれたりして。自分の人生の規模感では出てこないようなワードがぽんぽん飛び出してくるんです。そんな人たちが隣にいる取手は、すごくおもしろいですね。

私、尊敬しているミュージシャンがいるんです。その人の歌詞を読むとメッセージ性が強くて、いろいろな感情や考えがあったんだろうと思うんです。けれどインタビュー記事を読むと「ただ楽しいから音楽を続けている」という感じで話されていることが多くて、すごくかっこいいんですよね。自分にも悲しさや怒りみたいな感情はあるけれど、それも取り入れた上で、楽しさを原動力にしていきたい。そのぐらいのシンプルさと純粋さで、絵を書き続けたいと思っています。