ART LIVES TORIDE ここで芸術が生まれる。

小文間工房

山 嵩

金属を叩いて表情をつけたり、形を変えたり、溶接をして接合したりして作品を作っています。元々バイクが好きで、金属という素材で何か作りたいと思って鍛金というジャンルを選びました。
金属ってすごく冷たいとか硬いといったイメージがあると思いますが、実はすごく柔らかい表情をしたり暖かいような場面もある素材です。

私がやる金属の仕事は溶接が必要だったり、音が出るので、そういった制作ができる場所を探していたときにこの小文間工房を紹介してもらいました。
ここはすごく自然が豊かで、四季の移り変わりを感じながら過ごしていたので、金属に置き換えた時に何が一番近いのかなと考えて鉄を最初に選んで、植物を造形し始めました。

作品を作るということは売るということにつながってくるわけですが、そこにも疑問が出てきて、商業ベースなところに乗らない制作スタイルもいいんじゃないかなって最近は思っています。自分が自然体のまま作品を生み出していく、それがどこに落ちついて来るのかまだ分からないですけれど、楽な気持ちで作っていって、どこかしらで社会と関わっていけたらいいかなという気持ちが強くなってきました。ここ数年は発表もあまりしていなくて、私の生きている今、この時代はそんなに社会に積極的に出て行くタイミングじゃなのかなって、もうちょっと自分を熟したい時期なんだろうということを最近考えています。


根本 忠春

 元々何かを作るのは好きで、でも鉄という素材についてはちょっと諦めていたというか、遠い存在で、自分にはできないなあと思ってたんです。前の職場で山さんと出会って、鉄加工をする機会をいただいて、ああ自分でも出来るんだと思って。ただただその叩いたりくっつけたりして形が変わっていくのが面白くて。
ふとした時に「なんかそれいいね」って認めてもらったり、褒めてもらえると嬉しいです。

今は溶接とかだけなんですけど、叩いたり、絞り加工も知りたいと思いますし、柴田さんみたいな漆もやってみたいですね。漆は鉄にも塗れるんだよということを伺って、本当に色々やってみたい、知っていきたいです。


杉山 啓子

 広告制作会社勤務で長くデザインの仕事を手がけていて、ふと私イラストが描きたかったんだって思い出し「イラスト」を描き始めたんです。フリーランスで独立する前に自分の武器というか、もうちょっと技術を強化しようと思い立ち、ロンドンの大学に入り直しました。そこでプリントメイキングという自分に合った版画の手法「エッチング」に出会い、テーマも「植物」に定めました。

絵になる「植物」だったら、花や実、葉や茎といった何でも刷っています。まずカタチの面白さをもつ「植物」をモチーフにしていますが、馴染みの深い植物でも固有の面白さを探しています。知っているようで知らなかったモチーフを拡大したり、集積したりしたインスタレーションを手がけています。
出来上がったものが花や植物ということと、主に植物の表現に相性の良い和紙を使っているのもあって柔らかく優しそうって感じを受けられるのですが、ちょっとした「毒」みたいなものも大切かなと思っています。作品を作るときはいつも流されず、ピシッとくるようなものをと心がけています。

これまでずっと一人でスタジオ制作をしていたので、「小文間工房」に入ってのメリットはいろんなジャンルの作家さんと知り合えることです。違う道具を使いその技術や作品への向き合い方を知ることができて、ここのメンバーになれてよかったなと思っています。


柴田 克哉

僕は元々東京藝術大学取手校地で非常勤の先生をやっていて、今は松陽高校でも教えています。
藝大の後輩の子が、この辺でアトリエが欲しいっていうことで、探していたらたまたま農協の理事さんからここが空いてるっていう情報を頂いて、最初は6人で借りることになりました。ともかく雨風しのげて、ゆったりと制作ができればということで、あとは自分の道具を持ち込んで自由にやっていただくというのが基本ですね。
都内だと場所が狭かったりとか、近所との関係で音の問題とか、何してるんでろうって思われたり。それぞれ制作に関しては個人の自由な部分なので、干渉しないし、基本それがあって物を作るとか絵を描くとか出来てくることなので、そこの基本さえあればアトリエになり得るなと思っています。


地元のみなさんに還元っていうわけじゃないですけど、より多く知っていただくためにも何かできたらと思って、自由アトリエというものもやっています。月1回だけ決めた日にオープンにして、なんでも自由にどうぞという場です。
漆っていうと古いもので扱いが難しくて金銀でって思われるんですけど、お箸やお椀ってみなさん使っていますよね。ですから意外と身近な物なんです。でも高値ものもあったり、すごく幅広いんです。漆はただの液体で塗料ですから、色んな物になるんですけれど、そういう幅広さも魅力の一つだし、日本の気候風土に合っていて、自分は伝統的なことも踏まえながら新しいものも作っていけるんじゃないかなと思っています。
やはり工芸っていうのは人の生活があってみなさんが豊かに楽しく暮らすための芸術だと思うんです。それがあることによってみなさんが本当に心の中で楽しいなと思って作品に触れていただくということが自分にとっても嬉しいですし、そういう物が作れたら幸せだなと思います。あんまり難しく考えないで楽しくっていうことが一番いいのかなって思いますけどね。

小文間工房 外観

小文間工房

取手の地元の人との繫がりから農協の建物を借りて2006年に取手市小文間に共同アトリエを設立。
主に金工、漆芸、木工、版画、平面作品制作などに対応した設備を備えている。また、共同での制作、発表、美術教室、講座(ワークショップ)などを開催。

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