星 善之
僕、出身が福島の西会津町っていう小さな町なんですけど、そこに劇団風の子さんが巡回公演にきてくれたんですね。小学4年生のとき、それを見に行ったのが演劇との出会いです。実はその前日に、ひとつ下の友だちが突然死してしまって。正直、お芝居を観に行くのは嫌だと思っていたんです。だけど観てみたら、なにか救われるような感じがあって。演劇ってこういう辛いときに観ても、感動してしまうものなんだなって思ったんです。
中学の文化祭で演劇をやったり、高校でも演劇部に入って。茨城には大学で来たんですけど、大学あった地域を拠点にしている劇団があったので出入りするようになりました。卒業してから正式に入団して、4年くらい所属していて。俳優だけではなくてスタッフ側になることもあるから、自分が出演しないときでもずっと稽古場に通っているような状態です。昼間はアルバイト、夜は演劇の稽古。生活するよりも、作品をつくることのほうが優先の生活でした。演劇を観ることも仕事のうちなので、東京に行ったりもするんですけど、チケット代や交通費もかかるからなかなか厳しかったですね。
演劇は時間芸術でその瞬間になくなってしまうものなので、完成ってなんだろう、満足するってどういうことなんだろうってよく考えていました。毎日コンスタントに同じものができる芝居もすごいけど、セッションしながら即興性があって、日々違う部分があるのはいいと思うんですよね。僕の芝居がよくできていても、他のところでアクシデントがあったりとか。全体がきれいにまとまったけど、まとまりすぎてない?本当にこれでいいの?ってことがあったり。自分でもベスト、一緒につくる仲間にもベスト、観る人にもベストっていうのはどこにあるんだろうっていうのは探っていきたいと思っています。
2019年の11月に所属していた劇団を辞めまして、環境を変えようと取手に引っ越してきました。家賃も安いし、藝大もあるからいろんな活動している人がいるのかなって。今は新しく劇団に入ることもなく、1人のユニットとして活動を続けてみようかなと思っています。自分で時間を組み立ててマネジメントしなくちゃいけないんですけど、その分、行きたいときに行きたい場所に行ける自由はあります。地元の福島で制作したり、最近では三重県の尾鷲市にも行きました。
正直、不安ですよ。劇団を抜けるとき、1人でなにができるんだって周りからも言われました。作品をつくるってなると、俳優やスタッフを雇うお金もかかるし。本当に続けられるのか、ちゃんと作戦は考えないとって状況なんですけど、なんか、進むしかないというか。別の道に進むこともしょっちゅう考えます。もう無理かなって思っちゃうこともあるんですけど、それでも演劇をやりたいのは、これから先を生きていく人たちに対して、演劇を通してメッセージを伝えることができると思っているから。演劇を含めたパフォーマンスが人に与える影響を、小学校のときに僕が体験しているので。なんというか、それを信じているんです。
今は一人芝居をやりながら、観ている人とどうコミュニケーションをとっていくのかっていうことを考えています。このあいだ「高瀬舟」っていう作品を一人芝居でつくって。背景にリアルタイムで撮影した様子を投影して、その前で演劇をやりました。演劇をやっている僕と、映像によって映し出される別の視点があることで、観る人が2つの世界を自由に行き来できるような。作品自体もその間をクロスするみたいなことができたらいいなと思っていて。こういうことをパフォーマンスアートとしてやっている人はいると思うんですけど、それを演劇としてやっていくことの可能性ってあるんじゃないかなって、思い始めているところです。
取手に来てからは、まだ作品をつくっていないんです。取手についてまだなにも知らないので、話を聞かせてもらったり、歴史を調べたりしながら、ここがどういう町だったんだろうっていうところから交流してみたいと思います。僕は劇場というより空き家や使えるスペースで演ることが多いので、使っていい場所を教えてもらえたら嬉しいですね。あとは自分が生きていく上で、演劇をしながら農業をやることにも興味があって。取手でやってみたいことが、まだまだたくさんあるんです。
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星善之
福島県西会津町生まれ。舞台俳優。
創作ユニット「ほしぷろ」を主宰。演劇を中心に据えた作品創作を行う。年齢を問わずに作品を楽しんでもらうため、広く知られている童話を中心に、既存作品を取り上げ再構築・上演するスタイルを取る。劇場空間だけでなく居酒屋や野外スペースなど人々が日常行き交う空間での作品作りにも力を入れている。
主な上演作品は『セロ弾きのゴーシュ』『よだかの星』『高瀬舟』