ART LIVES TORIDE ここで芸術が生まれる。

大垣 美穂子

出身は富山です。金沢の辰巳丘美術高校で3年間絵を描いて、愛知県立芸術大学に入って立体をつくるようになりました。ちょうど奈良美智さんがドイツから帰国していて、展覧会のアシスタントとして入って。そこでいろいろな話をさせてもらったこともあって、卒業してすぐドイツのデュッセルドルフクンストアカデミーに入学しました。16年くらい暮らしたので、今もドイツのギャラリーに所属しています。
ドイツに渡った頃は、自分の感情を表現するような作品をつくっていたんです。でも、いろいろな国から人が集まっているなかで、まったく理解されなかったんですよ。それで、全人類に共通したテーマってなんだろうって考えて、生と死をテーマに作品をつくるようになりました。
最初は乳母車、その後に霊柩車をつくったんです。死んだ後に見る映像を霊柩車の中で見てもらって、10分くらい臨死体験をしてもらう作品です。そのとき「僕の国では霊柩車はこういう形をしてるんだ」とか「美穂子は死をそういう風に捉えてるんだね」って、いろいろな反応があって。それがおもしろかったんですよね。

日本に一時帰国したとき、お母さんと銭湯に行ったんです。そのときに目にした、おばあちゃんたちの裸がすごく新鮮で。なんてクンスト(ドイツ語で芸術)なんだ!って。毎晩銭湯に通って、こっそり観察して、帰ってスケッチして。膝の曲がり方とか、身体が年月を経て変形していることが多いんですよね。その変形の仕方が芸術的だと思っていて。それがここ10年ほどつくっているミルキーウェイ(天の川)シリーズの始まりです。

Milky Way -Threshold 012/017/FRP, LED, Dimmer, Wood/168 x 70 x 70 cm

人間が歳を重ねて老体になっていく。それって宇宙の動きと同じだと思っていて。その老体をかたどったものにいっぱい穴を開けて、光が中から投影されるようになっています。穴は感情の粒。歳を重ねるほど、感情がたくさん溢れているわけじゃないですか。それが宇宙をつくるというのを表現しています。人間の生命とか、生きているものは宇宙から生まれて、死んだ後も宇宙に還るっていう考え方を、作品を通じて感じるようになりました。私の人生、手で作業することで作品から学ぶことがすごく多いんです。
アイデアに詰まる、出てこないっていう状況はなくて、いつもどこかから降ってくるような感じで。今は新しく、UZUシリーズと呼んでいる作品をつくり始めています。昔の人がつくった作品を見ていても、渦がモチーフの本質になっていることって多いんですよね。なんでだろうって思ったときに、昔の人も渦が宇宙だってわかっていたんじゃないかと思うようになって。まだまだ途中で、完成すると直径2メートルくらいになります。ずっと立体をつくってきたからか、だいたいの大きさはできる前から把握しているというか、降りてくるみたいな感じがありますね。

取手は素敵なお年寄りが多くて、かっこいいモデルにたくさん会うことができるんですよ。本物の手をかたどるシリーズがあるんですが、それは近所のおじいちゃんとおばあちゃんの手を使わせてもらっています。付き合いのあるおばあちゃんたちも10年経つとどんどん老いてくるじゃないですか。そういう時間の流れも制作に取り入れています。

取手に引っ越してきたのは、ドイツから帰国したタイミングです。旦那が東京藝術大学出身で、友だちもいるからって。取手って空気がめちゃくちゃおいしいし、人がいい。近所のおじいちゃんおばあちゃんがすごく良くしてくれて、大根とか白菜をもらったり、私が展覧会をやるときには、わざわざ東京まで見に来てくれたりして。私がくも膜下出血で入院したときも、旦那が病気で亡くなったときにも、近所のおばあちゃんたちが何回もお見舞いに来てくれました。私が落ち込んでいたときもごはんを持ってきてもらって。すごくお世話になっています。
今度、再婚することを伝えたらね、隣のおばあちゃんが花束くれたんですよ。本当にいい人ばっかりで、戸頭が大好きです。広いアトリエも欲しいけど、探すなら絶対に戸頭。今の庭付き一軒家も気に入っていて。庭で削る作業をやって、出来上がったら中に運んで。雨が降ったら部屋の中で絵を描きます。そのリズムで制作ができるのも、いいなって思っているんです。