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諏訪部 佐代子 君島 英樹
諏訪部
2人で一緒にやろうっていうよりも、2人とも2020年に留学に行く予定だったのが延期になってしまって。すぐ行くことができると信じていたので、休学期間の間、荷物を置いたり制作するスペースを確保しないとっていうことで場所を探しはじめました。
君島
ここは以前、木工の方が使っていて、しばらく空いてたみたいなんです。自由に使っていいということが大きな決め手になりましたね。壁をつくるのに3、4ヶ月かかりました。2人とも、カーテンの色や床材、照明など…細かいところにこだわってしまって。
君島
僕は小さいころから絵を描いたりものをつくったりするのが好きで。小中高の先生、予備校の講師の方まで、熱心に教えてくれる方に恵まれました。藝大の油画科はお試しで受けたんですけど、なんか、1次試験通っちゃったんですよね。2次はだめだったんですけど、一浪したら受かるんじゃない?みたいな、変なやる気が出てしまって。1年後、無事に入学することができました。
諏訪部は油画科で同期だったんです。はじめて会ったのが新歓のグループワークで、それからイベントごとを企画することが多くて。
諏訪部
ソフトボール大会もやったし、コストコの惣菜 VS 君島の料理っていうのもやったよね。アメリカの資本主義と家庭料理の対決とか言って。
君島
料理が得意なので、ことあるごとにやっています。学外展のレセプションでは、80人前のポトフをつくったりとか。家にみんなが集まって鍋したり、パエリアしたり。
諏訪部
パエ島って呼ばれてたよね。
君島
だんだん作品にも料理を取り入れていくようになって。ここ2年くらいは子どもを対象に「お弁当ワークショップ」というのを企画しています。お弁当箱に石とか砂とか、自然素材をおかずに見立てて配置していくんです。最後にラベルを書いてもらうんですけど。一億円弁当とか、宝石弁当って書いていておもしろかったり。ウーバーイーツだって人に届ける子もいたりして。
お弁当っていうものを提示しただけで、自分のなかで創造性を持って解釈してくれるのがおもしろくて。もうちょっと素材を増やしたり、お弁当箱を工夫しながらやってみたいと思っています。
諏訪部
君島くんの言うことでおもしろいのが、料理は絵で、絵は料理という言葉。
君島
そうだね。じゃがいもとにんじん、肉を買えばカレーや肉じゃが、いろんなものができる。それって筆を選んで絵の具を選んで、じゃあその素材を使ってどういう作品をつくるか、と似ていて。これって配合したらこういう味になるのかな、とか。調理することとものをつくることって、似てる部分があるなっていうのがあって。
小さいころから料理をつくっていたことが作品につながっています。料理をモチーフにする作品もあれば、料理をつくる感覚として作品をつくるのもあって。これからも、核の一つにしていきたいです。
諏訪部
私は幼稚園のころから絵を描きはじめて。現代美術家のおじいちゃん先生が身近にいて、若い頃は紙の上をダンプカーで走るとか…面白いことをやっていた人だったんです。最初は真面目にその人のところで絵を描いてたんですけど、私もだんだん、美術そのものが気になってきて。自分を表現することが、あたり前の世界があるんだって知っていたことは大きかったですね。今の人生を選択するのに。
子どもの頃から、ピエロみたいな性格だったんですよ。その集団では、こういう人がいたらおもしろいでしょっていうのを自分でつくってきました。いざ、自分がなにをするか考えたとき、ずっと子どものときから目を背けられずにいた美術の世界に行こうと思ったんです。
考えががらっと変わる瞬間が、ずっと自分の人生で続いていたらいいな。もしくは誰かの考え方をがらっと変えられるようなことができたらいいなと思って、作品をつくっているんだと思います。
君島くんは、絵画は料理だって話をしてましたけど、私は、絵画は時間芸術だと捉えていて。絵画っていうメディアは、どうしても時間を含んでいて、変質し続けるものだと思うんです。
だけど、今はある瞬間だけが切り取られて、インターネット上や私たちの頭の中に流通している。例えば私たちがモナリザというものを想像したとき、出回っている画像のイメージがパッと浮かんでくる。それって、すごく変な構造だと思うんですよね。私たちが絵画と呼んでいるものは、何ピクセルかの画像なのか?って。それが今やっている修了制作につながっていると思います。
© Global Art Practice, Graduate School of Fine Arts, Tokyo University of the Arts, 2021Photo: Kenta Kawagoe
私の制作サイクルは、まず最初にあれ?っていうことがあって、それを言葉にしたいと思うんですけど、しきれないんです。考えをもう1歩進めるために、つくらなくてはいけないっていうことになる。それがずっと繰り返されていく。私自身、美術でしか伝えられないことが必ずあると信じていて。だからこそ離れられないんだと思います。
私が一番恐ろしいなと思うのが、考えられなくなること。考えをやめてしまうこと。息をするようなことのひとつに、作品をつくるっていうサイクルが入っています。
最近は、自分が作品をつくったとき、これが誰のものなのかっていうのをよく考えていて。自分たちの作品が他者の視点にさらされたとき、どういう価値になるのかっていうのを実験的に考えていこうとしたのがVIVAで開催したノット・フォー・セールです。
諏訪部
VIVAでできなかったワークショップは、絶対にやりたいよね。
君島
そうだね。近いうちに。
諏訪部
あとNULL NULL STUDIO、拡大したいよね。すごい将来、近所の子たちがずっと集まるような場所にできたらいいよね。
君島
お互い絵画以外のことをやっていると思うので、場所があったらね、やってみたいことはたくさんあるんですよ。
諏訪部
我々、目指してるところはぜんぜん違うんです。考えはまったく違うので、お互いのやってることに口を入れないっていう暗黙の了解があります。ネガティブ禁止。お互いにリスペクトしていて、やりたいことを尊重する。共通項がみつかったとき、同じものをつくることはあるっていうくらいの関係かな。
君島
技術の共有っていうか、それぞれの得意分野を共有する関係性にいるのかなと思っていて。僕は文章を書くのが得意ではないけど、諏訪部は得意とか。アイデア出したり、ここで使う家具も自分たちでつくったんですよ。
諏訪部
今日はありがとうございました。NULL NULL STUDIOのロゴをエコバックに刷ったので、よかったらこれ、記念にどうぞ。今日はクリスマスイブなので!
メリークリスマスイブ!
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諏訪部佐代子
諏訪部はペインターとしてのキャリアを発端として、イメージの創造、持続や消失に対する疑問への応答としてインスタレーションを発表する。空間で現象することやそこでの対話を第一として捉えており、彼女の作品はその場の揺らぎや含みと共演する。取手では、たいけん美じゅつ場VIVAでの活動のほか、《放課後アートの時間》にアーティストとして携わっている。
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君島英樹
1995年神奈川県生まれ
2019年東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻 卒業
2022年同大学大学院美術研究科油画専攻壁画分野 修了
祖母が作ってくれたお弁当から着想を得て石や石膏、土、藁、などの天然の素材を組み合わせて制作をする。様々なおかずを組み合わせてできあがるお弁当を、作品と同様であると捉え、絵画や立体、ワークショップをはじめとする制作活動を行っている。最近では、天然素材を用いた現代のアートの可能性をテーマにすることで、より素材の価値を探求するために、古来より続く石と土の関係を紐解き、私なりの縄文時代を作品にしている。