ART LIVES TORIDE ここで芸術が生まれる。

あーと屋図工室
浅野純人

多摩美術大学の油絵科を出て、東京藝術大学の大学院に進学したのが取手に来たきっかけです。在学中からアートプロジェクトに関わっていて、卒業後、仲間や地元NPOの方と取手駅の東口に「あーと屋えまる」というボックスギャラリーをつくりました。小さいころから教員になりたいという夢もあって、そこでデッサン教室と子ども教室をはじめたのが2006年です。


制作にボランティアとして取手の人たちに参加してもらったり、自分もイルミネーションをつくる手伝いをしたりしながら、町の人とのつながりがどんどんできていったんですよね。教室や制作をする場所も「このまま空けといても誰も使わないから、使っていいよ」って貸してもらって。光熱費もいらないからって言ってもらうこともありました。「君たちが芸術で社会に貢献する。それを応援していることで企業の社会貢献にもなるから」って。なにをするにも町の人たちとのつながりとおかげさま、でここまでやってきました。去年の3月に市内に家を建てたことをきっかけに、アトリエ兼教室を自宅で開くようになりました。通りに面していることもあって、開いていると声をかけてくれる人もいます。パン屋さんの帰りに覗いて「うちの孫も絵描くのが好きなのよ」なんて話を聞かせてもらうのもおもしろいですよ。

自分の経験が上がるにつれ、教室で教えられることや生徒さんの年齢も変わってきました。自分の子どもが幼稚園になって、この子たちとできることがあったら楽しいなって。それで親子で楽しめるクラスをつくったり、中学生以上になっても楽しめるあーてぃすとクラスをつくったり。
教室では、上手に描くとかそういうことは考えていなくて。楽しんで、好きになってほしいですね。好きになればなるほど、できることを増やしたくて聞いてくるんですよ。人物がうまく描けないけどどうしたらいいんだろう、とかね。そうやっているうちに自然と技術は上達していきます。
僕、褒めることには自信があるんです。自分自身も作品をつくっているし、鑑賞するのが趣味でいろいろなものを見ているから、いくらでも褒めようがあるわけですよ。形の正確さだけではなくて、色彩の美しさとか。美しいっていっても一般的なきれいさじゃなくて、渋いとかかっこいいとか。人間、褒められたら嬉しいですからね。さらに楽しくなったらいいなって。

この絵は私が描いたんですけど、分厚い紙に描いてみる。折り紙やトレーシングペーパーを貼って、その上からも描く。どの方向から見てもいい。ごちゃごちゃしてるけど、なんかいい。ただうまく絵を描くのが正解じゃないっていうのが伝わったらいいなって。これがうまい絵なんだと提示されたものをそのまま信じるのは、生きる力がついているとはいえないと感じていて。今ある常識を疑うというか、今あるものに甘んじないのも大切だと思っています。
私自身の制作でいうと、大学生の頃はコンセプトをしっかり決めて、人との交流を閉ざして自分でつくりあげていく方法を選んでいました。大学院に来たら芸大生や市民のボランティアと一緒に壁画を制作したりして。ボランティアの人たちって、思った通りには描いてくれないんですよね。最初はそれが嫌だったんですけど、軟化してきたんでしょうね。良いのか悪いのかわからないけど、いろんな人と関わっていくなかで、偶発性に作用されるものもつくってみたいと思うようになりました。

ここ数年は縁起のいいものをモチーフにすることが多くなりました。好きなんですよ。いちいちコンセプトがあって、おめでタイとかオヤジギャグも混ぜたりして。この熊手は、子どもの教室で使っている素材でつくっています。くしゃくしゃにした紙、スズランテープ、プラ板とかビーズとか。縁起物が好きで、かつ子どもの教室をやっている僕がこれをつくるっていうことに必然性があるなと思って、おもしろかったですね。自分の制作と教室を分けるんじゃなくて、うまいこと融合させていけたら自然なのかなって、最近は思っています。